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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2212号 判決 1982年12月22日

控訴人・附帯被控訴人

加藤元

右訴訟代理人

古賀正義

中川明

吉川精一

鈴木五十三

山川洋一郎

喜田村洋一

被控訴人・附帯控訴人

澁谷和昭

右訴訟代理人

赤井文彌

船崎隆夫

生天目巌夫

岩崎精孝

主文

一  控訴人・附帯被控訴人の控訴並びに被控訴人・附帯控訴人の附帯控訴に基づき、原判決主文第一、二項を次のように変更する。

控訴人・附帯被控訴人は、被控訴人・附帯控訴人に対し、金五七八万七〇二六円及びこれに対する昭和四七年六月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人・附帯控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審(附帯控訴を含む。)を通じてこれを四分し、その三を被控訴人・附帯控訴人の負担とし、その余を控訴人・附帯控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人・附帯被控訴人代理人(以下「控訴代理人」という。)は、控訴につき「原判決中控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)敗訴部分を取り消す。被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人代理人(以下「被控訴代理人」という。)は、控訴につき控訴棄却の判決を、附帯控訴として「原判決を次のとおり変更する。控訴人は、被控訴人に対し、金二一三一万八〇二六円及びこれに対する昭和四七年六月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示(原判決二枚目表八行目から五枚目裏二行目まで及び一〇枚目表一行目から七行目まで)と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決二枚目裏一行目の「土地」を「各土地(以下これらを「本件土地」と総称し、同目録(一)の土地を「本件(一)の土地」、同目録(二)の土地を「本件(二)の土地」という。)」に、原判決三枚目中、表一一行目の「本件物件」を「本件土地」に、裏一〇行目の「(一)、の物件」を「本件(一)の土地」に、裏一二行目の「(二)、の物件」を「本件(二)の土地」に、原判決四枚目中、表四行目、表九行目及び裏三行目の「本件物件」並びに裏六行目の「本件各物件」をいずれも「本件土地」に、原判決五枚目中、表一行目の「昭和四五年」を「昭和四三年」に、表一行目、表二行目、表五行目及び表七行目の「本件物件」をいずれも「本件土地」に改め<る。><証拠関係省略>)。

(被控訴人の主張)

1  原判決二枚目裏六行目の末尾に「(以下右債務担保のための契約を「本件仮登記担保契約」という。)」を加える。

2  原判決三枚目表五行目の次に以下のように加える。

「本件仮登記担保契約は、処分清算型のものであるところ、一般に、処分清算型仮登記担保権者は担保物件の売却代金から被担保債権及び必要経費を控除した残金を設定者に返還する義務を負い、かつ、これをもつて足りるものと解されている。しかし、右の一般原則は、仮登記担保権者が売却に当たり、できる限り適正な価額によつて売却すべく誠実に換価処分をし、適正価額と著しく異ならない価額で売却された場合に限られるのであつて、これを怠り不当に低い価額で売却された場合には、現実に売却された価額をもつて清算するのは相当でなく、売却時における取引を前提として適正に評価された価額により売却されたものとして清算義務の範囲を決するのが相当である。

しかるところ、控訴人は本件(一)の土地を昭和四五年一二月二二日代金二二〇〇万円で、本件(二)の土地を昭和四七年一二月一八日代金一九一〇万円で売却したと主張するが、右価額は、いずれも取引価額と比較して不当に低く、仮登記担保権者である控訴人ができる限り適正な価額によつて売却すべく誠実に換価処分をしたものとはいえない。そこで、このような場合には、控訴人は、本件土地について、被控訴人主張の売却時において適正に評価された価額、すなわち、本件(一)の土地について二六五一万九〇〇円、本件(二)の土地については二四八四万三七〇〇円で売却されたものとして清算すべきである。

なお、控訴人主張の先順位の担保権者等として、国(東京国税局)、松戸信用金庫及び株式会社常盤相互銀行(以下「常盤相互銀行」という。)の三者があつたこと並びに昭和四三年七月一九日及び同年一〇月一五日現在の松戸信用金庫の債権額が控訴人主張のとおりであることは認めるが、国(東京国税局)及び常盤相互銀行の同日現在の債権額は知らない。昭和ハム食品株式会社(以下「昭和ハム食品」という。)が本件土地につき処分禁止の仮処分命令を得てその執行をしていたので、控訴人が同社に対し、本件仮登記に基づく本登記手続についての承諾を求める訴えを提起したところ、昭和四三年七月一九日右当事者間で訴訟上の和解が成立し、これに基づいて控訴人が同社に対し承諾料として四〇万円を支払つたことは認める。」

3  原判決三枚目表九、一〇行目の「清算残金二、三四〇万四、〇二四円の不当利得金を返還すべき」を「清算金二一三一万八〇二六円(その計算は別表一記載のとおり)を支払うべき」に改める。

4  原判決三枚目裏二行目の次に以下のように加える。

「本件仮登記担保は処分清算型のものであるから、本件土地の譲渡は、控訴人が仮登記担保の実行として行つたものであり、控訴人が得た売却代金は、被担保債権及び必要経費を控除し残金はすべて被控訴人に返還すべき性質のものである。それゆえ、控訴人が清算手続をとり、その旨の所得税申告を行えば、そもそも控訴人に譲渡所得の発生する余地はあり得ないはずである。しかるに、控訴人は、これを怠つて本来行うべき清算手続をとらず、自己の所得として申告したため、譲渡所得ありとして課税されたものである。したがつて、この課税額を売却代金から必要経費として控除すべき合理的根拠はない。」

5  原判決三枚目裏三、四行目の「不当利得金二、三四〇万四、〇二四円」を「清算金二一三一万八〇二六円」に改める。

(控訴人の主張)

1  原判決三枚目裏一〇行目の「時期、および代金額は否認する」を「その余の事実は否認し、その主張は争う」に改める。

2  原判決四枚目表一行目の次に以下のように加える。

「本件仮登記担保契約は帰属清算型のものである。したがつて、仮登記担保権者は、債務者に履行遅滞があつた場合には予約完結の意思表示を行うことによつて目的不動産を処分する権能を取得し、これに基づいて当該不動産を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめることを得るようになる。

本件においては、控訴人は渋谷新太郎に対して仮登記に基づく本登記手続請求の訴えを提起し、その訴状においてした予約完結の意思表示が昭和四三年六月二六日渋谷新太郎に到達し、控訴人は、本件土地を処分する権能を有するに至つた。なお、当該不動産の評価額が仮登記担保権者の債権額を超えるときは、仮登記担保権者は、右超過額を清算金として債務者又は仮登記後に目的不動産の所有権を取得してその登記を経由した第三者に交付すべきものとされているが、本件土地の評価額は一六〇〇万円が相当であり、これから被担保権者である渋谷新太郎に対する債権額を控除するとともに、先順位の担保権者等である国(東京国税局)、松戸信用金庫及び常盤相互銀行に対する渋谷新太郎の債務額と経費を控除すれば清算金が生じないため、これを交付することがなかつた。また、渋谷新太郎及び被控訴人は、右の事情を了承して、控訴人の本件仮登記に基づく本登記手続請求及び右本登記手続についての承諾請求に対しても清算金の支払を請求することをしなかつたのである。したがつて、右事件の判決に基づいて控訴人が本登記を経由した昭和四三年一〇月一五日において、被控訴人らは確定的に自己の所有権を失い、被控訴人が仮に清算金債権を有するとしても、右事件の口頭弁論終結時である昭和四三年七月一九日当時における土地の価額を基準とした清算金債権を有するにすぎない。そして、昭和四三年七月一九日現在における先順位の担保権者等としては前記の三者があつたところ、国(東京国税局)の債権額は二〇〇万円を下らず、常盤相互銀行の債権額は二三万円を下らず、松戸信用金庫の債権額は元本六〇〇万円及び利息一二万三三六九円の合計六一二万三三六九円であつた(同年一〇月一五日現在における松戸信用金庫の債権額は、元本六〇〇万円及び利息二六万七九四円の合計六二六万七九四円であり、国(東京国税局)及び常盤相互銀行の債権額は、同年七月一九日現在のそれと同じである。)更に、昭和ハム食品が本件土地につき処分禁止の仮処分命令を得てその執行をしていたので、控訴人は、同社に対し、本件仮登記に基づく本登記手続についての承諾を求める訴えを提起したところ、昭和四三年七月一九日右当事者間で訴訟上の和解が成立し、控訴人は同社に対し承諾料として四〇万円を支払うこととなり、その支払を了した。したがつて、右四〇万円は、本件土地の担保価値実現のための費用として、その評価額から控除されるべきである。

その後、控訴人が昭和四五年に本件(一)の土地を、昭和四七年に本件(二)の土地を第三者に売却したのは、本件土地の完全な所有者としてした行為であり、仮登記担保権者としての地位に基づいてしたものではない。」

3  原判決四枚目表三行目の「被告に清算義務があるとしても」を「控訴人に清算義務があり、清算の基準時が本件土地を第三者に売却した時点であるとしても」に改める。

4  原判決四枚目裏八行目の「元金二二七万〇、八九八円」を「元金二〇四万五四二円(その計算は別表二のとおり)」に改める。

5  原判決四枚目裏九行目の次に以下のとおり加える。

「譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が売却その他の処分によつて所有者の支配を離れて他に移転することにより増加益が具体化したときに、これをとらえて課税するものである。ところで、処分清算型の担保の場合、第三者に処分されるまでの間は債務の担保を目的として所有権が形式的に移転しているにすぎず、当該資産に関するその余の権能は譲渡人(債務者)に引き続き保有されているのであるから、清算のために第三者に処分されてはじめて、その資産が所有者たる譲渡人の支配を離れて増加益が確定的に具体化するものである。したがつて、第三者への譲渡による譲渡対価が譲渡収入であり、そこに譲渡益が発生したときに、譲渡所得税が課税されるのは譲渡人に対してである。

それゆえ、債務者が負担すべき譲渡所得税を債権者が負担したときは、換価清算手続において債務者の負担となるべき費用の範囲に含まれるものである。」

(証拠)<省略>

理由

一請求原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

二控訴人は、被控訴人ないし渋谷新太郎との間で、被控訴人に対して交付すべき清算金はなく、清算は終了した旨の合意をした旨主張するが、原審証人萩原克虎の証言によつては右事実を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。控訴人の右主張は、理由がない。

三そこで、本件仮登記担保契約が被控訴人主張のとおり処分清算型のものであるかどうかについて検討する。

<証拠>によれば、本件準消費貸借債務の弁済期が徒過した昭和四三年の夏ころ、被控訴人側の渋谷新太郎、橋本泰助と控訴人、控訴人の代理人である萩原克虎弁護士とが会して本件仮登記担保の清算について協議し、その際被控訴人側から、国税滞納分と松戸信用金庫に対する債務を控訴人において負担するほか、一五〇〇万円の清算金の支払を受けたい旨の要求がされたが、控訴人側から清算金としては二〇〇万円ないし二五〇万円しか支払えない旨の回答がされ、結局協議が調わなかつたこと、その後も同年一一月ころまでの間に被控訴人側から、代替地を提供して本件各土地の返還を受けたい旨の提案や控訴人の立退きの要求に対し、被控訴人側から清算金八〇〇万円の要求がされるなどしたが、結局両者間の合意をみるに至らなかつたこと、控訴人は、被控訴人及び渋谷新太郎に対し、その訴状送達をもつて本件代物弁済予約完結の意思表示をするとともに、本件仮登記に基づく本登記手続並びにその承諾請求の訴えを提起し、右事件は東京地方裁判所昭和四三年(ワ)第六三三五号事件として同庁に係属したこと、その第一回口頭弁論期日前である昭和四七年七月上旬ころ、控訴人の訴訟代理人である右萩原弁護士は、被控訴人らから右事件の訴訟代理人として委任を受けていた長谷長次弁護士と会合し、清算について話し合つたが、その際萩原弁護士は、被控訴人側の控訴人及び本件土地の上に担保権を有する他の債権者に対する債務額は、本件土地の時価を上回るものであり、清算金の生ずる余地がない旨告げたところ、長谷弁護士は右訴訟の第一回口頭弁論期日に出頭せず、右訴訟は昭和四三年七月一九日の口頭弁論期日に被控訴人ら欠席のまま終結し(弁論終結の日が右同日であることは弁論の全趣旨により認められる。)、控訴人勝訴の判決が言い渡されて確定したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定の事実に加えて、本件土地の第三者への売却処分が本件(一)の土地については控訴人への所有権移転登記後二年二箇月を経た後に、本件(二)の土地については同じく三年半以上を経た後にされていること(この点については当事者間に争いがない。)を併せみれば、本件仮登記担保契約はいわゆる処分清算型ではなく帰属清算型であると認めるのが相当である。

四1  次に、清算金の有無及びその額について検討するに、いわゆる帰属清算型の仮登記担保契約においては、債務者に不履行があつた場合に仮登記担保権者が債務者に対して予約完結の意思表示をしたときは、仮登記担保権者において目的不動産を処分する権能を取得し、これに基づいて目的不動産を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめ、これによつて自己の債権の弁済を得ることができるのであるが、その際右価額が仮登記担保権者の債権額(担保権の実行に要した相当費用を含む。)を超えるときはその超過額を債務者又は当該不動産の第三取得者に清算金として支払わなければならない。そして、清算金算定の基礎となるべき時期は、仮登記担保権者が目的不動産を評価清算してその所有権を自己に帰属させる時と解すべきであるが、評価清算がなされないまま仮登記に基づく本登記手続請求の訴えが提起され、その訴訟において債務者から清算金の支払を求める主張が提出されたときは、仮登記担保権者の右請求は、債務者への清算金の支払と引換えにのみ認容すべき(最高裁昭和四三年(オ)第三七一号同四五年九月二四日第一小法廷判決・民集二四巻一〇号一四五〇頁参照)ところ、その場合における清算金算定の基準日は、右訴訟における事実審の口頭弁論終結の時と解するのが相当である。右訴訟において、債務者から清算金の支払を求める主張が提出されず、したがつて清算金の存否及び数額が確定されないまま本登記手続請求を認容する判決がされ、これにより本登記が経由されるに至つた場合には、本登記が経由されて当該不動産の所有権が確定的に仮登記担保権者に移転した時と解すべきである。これを本件についてみるに、前記認定の各事実によれば、債務者である渋谷新太郎において本件被担保債務の履行期を徒過して間もなくの昭和四三年夏ころ、控訴人、その代理人である萩原弁護士と被控訴人側の渋谷新太郎、橋本泰助との間で清算についての話し合いが行われたが、結局不調となつて本件仮登記に基づく本登記手続請求の訴えが提起され、更に被控訴人側の委任を受けた長谷弁護士は、右訴訟の第一回口頭弁論期日前に右萩原弁護士と協議した結果、清算金はない旨の説明を受けたため、第一回口頭弁論期日に出頭せず、結局被控訴人側欠席のまま控訴人勝訴の判決が言い渡されて確定したというのであり、同年一〇月一五日その本登記手続を了したことは当事者間に争いがなく、右各事実からすると、本件土地の評価清算が行われないまま本登記手続請求の訴訟に至つたものと認められ、しかも、清算金の存否及び数額が確定されないまま右請求認容の判決がなされ、その判決により本登記が経由されたものと認められるから、右本登記が経由された昭和四三年一〇月一五日をもつて清算の基準時とするのが相当である。

2  <証拠>、原審鑑定人田村三夫の鑑定の結果によると、本件土地の昭和四三年一〇月一五日当時の更地価格は合計二五二三万三二〇〇円(本件(一)の土地一五五二万四二〇〇円、(二)の土地九七〇万九〇〇〇円)であつたと認めるのが相当であるところ、本件土地につき常盤相互銀行(昭和二七年二月二九日設定登記)及び松戸信用金庫(昭和三六年六月五日設定登記)のため、本件仮登記担保権より先順位の根抵当権が設定され、更に、国(東京国税局)が国税徴収法による滞納処分として差押処分をし、昭和四二年一〇月一六日その登記がされていたことが認められる。そして、右のうち、松戸信用金庫が昭和四三年一〇月一五日現在で渋谷新太郎に対して有していた債権の額は、元本六〇〇万円、利息二六万七九四円の合計六二六万七九四円であつたことは当事者間に争いがない。<証拠>によると、国(東京国税局)が右同日現在で同人に対して有していた国税債権(本税)は、一九二万六七〇五円であつたことが認められる。控訴人は、国税債権額は二〇〇万円を下らなかつたと主張するところ、<証拠>によると、国(東京国税局)は、右本税一九二万六七〇五円のほか、昭和四五年一二月一日に納付された同日現在の利子税及び延滞税として合計七万三二九五円の国税債権を有していたものと認められるが、右証拠によつては昭和四三年一〇月一五日現在の利子及び延滞税の額を確定することはできず、他にこれを確定し得る証拠もなく、同日現在の国税債権額が一九二万六七〇五円を何円超える金額であつたかについて認定することができないから、控訴人の右主張は一九二万六七〇五円を超える部分につき排斥を逸れない。原審証人萩原克虎の証言によると、常盤相互銀行も右同日当時渋谷新太郎に対する債権を有していたことがうかがわれるけれども、右証言及び前掲乙第一八号証の二、三によつても同日現在の債権額を確定することができず、他にこれを確定し得る証拠はない。

本件土地につき昭和ハム食品が処分禁止の仮処分命令を得てその執行をしていたこと、控訴人が同社に対して本件仮登記に基づく本登記手続についての承諾を求める訴えを提起したところ、昭和四三年七月一九日右当事者間に訴訟上の和解が成立し、控訴人は同社に対し承諾料として四〇万円を支払うこととなり、その支払を了したことは当事者間に争いがなく、右事実によると、右四〇万円は、本件土地の所有権を確定的に控訴人に移転させ、その担保価値を実現するために必要な経費というべく、本件土地の評価額から控除するのが相当である(なお、控訴人は、訴外萩原克虎に対して支払つた弁護士費用、訴外木下敬一、小川正男に対して支払つた報酬等及び本件土地の譲渡による譲渡所得税については、本件土地を第三者に売却処分した時点をもつて清算の基準時とした場合において控除すべき必要経費としてのみ主張するものであるから、これらの費用支出の有無及びその控訴の当否については判断しない。)。

しかるところ、昭和四三年一〇月一五日現在における控訴人の渋谷新太郎に対する本件被担保債権は、元本九五九万六五四〇円、利息(右元本に対する日歩二銭四厘の割合による昭和四二年一二月一〇日から昭和四三年五月一〇日までの一五三日分)三五万二三八四円、遅延損害金(右元本に対する日歩六銭の割合による昭和四三年五月一一日から同年一〇月一五日までの一五八日分)九〇万九七五一円の合計一〇八五万八六七五円である(右元本の金額、利率及び遅延損害金の率については当事者間に争いがない。)から、被控訴人が控訴人から支払を受けるべき清算金は、五七八万七〇二六円となる(25,233,200円−(6,260,794円+1,926,705円)−400,000円−10,858,675円=5,787,026円)

五以上によると、控訴人は、被控訴人に対し、右清算金五七八万七〇二六円に清算の基準日の翌日である昭和四三年一〇月一六日以降完済までの民法所定年五分の割合による遅延損害金を付して支払う義務がある。被控訴人の本訴請求は、五七八万七〇二六円及びこれに対する右同日以降である昭和四七年六月一五日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余は失当として棄却すべきである。

よつて、これと結論を異にする原判決は一部不当であるから、本件控訴並びに附帯控訴に基づき原判決主文第一、二項を主文のように変更することとし、訴訟費用につき民訴法九六条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(貞家克己 近藤浩武 渡邊等)

別表一

一1 本件(一)の土地を昭和四五年一二月二四日代金二六五一万九〇〇円で売却

2 控除経費 合計一三七一万三五〇〇円

(内訳)東京国税局二〇〇万円、昭和ハム食品株式会社四〇万円、小川正男一万三五〇〇円、松戸信用金庫一〇〇〇万円、萩原克虎一〇〇万円、木下敬一 三〇万円

3 売却代金から控除経費を差し引いた残額 一二七九万七四〇〇円

4 本件被担保債権元本 九五九万六五四〇円

同利息 三五万八一円

同損害金(昭和四三年五月一一日から昭和四五年一二月二四日まで九五八日) 五五一万六〇九一円

(9,596,540円×0.0006(日歩6銭)×958(日)=5,516,091円)

右利息、損害金の合計 五八六万六一七二円

5 3の残金を4の損害金、利息、元本の一部に充当した残元本 二六六万五三一二円

二1 本件(二)の土地を昭和四七年六月一四日代金二四八四万三七〇〇円で売却

2 一の計算による残元法 二六六万五三一二円

損害金(昭和四五年一二月二五日から昭和四七年六月一四日まで五三八日) 八六万三六二円

(2,665,312円×0.0006(日歩6銭)×538(日)=860,362円)

3 1の売却代金を2の損害金、残元本に充当した残余の清算金 二一三一万八〇二六円

別表二

一1 本件(一)の土地を昭和四五年一二月二二日代金二二〇〇万円で売却

2 控除経費 合計一八〇八万一三五九円

(内訳)東京国税局二〇〇万円、昭和ハム食品株式会社四〇万円、小川正男一万三五〇〇円、松戸信用金庫一〇〇〇万円、萩原克虎一三〇万円、木下敬一 一〇〇万円、分離譲渡所得課税金三三六万七八五九円

3 売却代金から控除経費を差し引いた残額 三九一万八六四一円

4 本件被担保債権元本九五九万六五四〇円に対する利息 三五万八一円

同損害金(昭和四三年五月一一日から昭和四五年一二月二二日まで九五六日分) 五五〇万四五七五円

(9,596,540円×0.0006(日歩6銭)×956(日)=5,504,575円)

5 3の残金を4の損害金の一部に充当した残損害金、利息の合計一九三万六〇一五円

元本 九五九万六五四〇円

二1 本件(二)の土地を昭和四七年一二月一八日代金一九一〇万円で売却

2 控訴経費 五四二万一九七七円(分離譲渡所得課税金)

3 売却代金から控除経費を差し引いた残額 一三六七万八〇二三円

4 本件被担保債権元本九五九万六五四〇円に対する昭和四五年一二月二三日から昭和四七年一二月一八日までの損害金 四一八万六〇一〇円

(9,596,540円×0.0006(日歩6銭)×727(日)=4,186,010円)

右に一5の残損害金、利息を加えた合計 六一二万二〇二五円

右に一5の元本九五九万六五四〇円を加えた合計 一五七一万八五六五円

5 3の残金を4の合計額に充当しても、清算金は生じない。

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